ポッドキャストは音声が最も大事な形式であるため、ビジュアルデザインはあまり重要ではないと思われるかもしれません。しかし、リスナーが様々なプラットフォーム上で無数の選択肢を目まぐるしくスクロールしていくような飽和状態にある市場では、目を引くロゴがあるかどうかで大きな差が生まれます。

非常に小さく表示されても人目を引くことができるポッドキャストのカバーアートを作成する方法について、7人のアーティストに話してもらいました。膨大な量の音声コンテンツを、1つの正方形に凝縮したエディトリアルイラストレーションやポートレート写真を制作するためのヒントやコツを紹介します。

ポッドキャスト:88 Cups of Tea

デザイナー:Studio Juliette、Juliette Kim

Yin Chang氏は、クリエイティブなライター向けのオンラインプラットフォームとポッドキャスト88 Cups of Teaを2015年に立ち上げました。その4年後の2019年に、Yin Chang氏はブランドの刷新を進めるため、デザイナーのJuliette Kim氏とともに、新しいデザインの指針となる言葉を2つ選びました。肯定感と多様性です。「ブランドデザインでは、目標とメッセージを明確にすることが大事です」とKim氏は言います。

「Yinと密接に連携しながらデザインを進め、色や形を通じてポッドキャストのコアバリューを伝えようと努めました」と同氏は言います。

完成品は、一見するとシンプルです。柔らかなオフホワイトを背景に、ポッドキャストのタイトルが暖かみのあるパステルカラーで表現されています。しかし、Kim氏が選んだ遊び心のあるデザインにより、このポッドキャストのミッションについて多くのことがわかります。

作業のほとんどをAdobe Illustratorで進めているKim氏は、このアプリのシェイプ形成ツールを使用して、「Tea」のEを引き伸ばしました。積み重なった本のイメージを再現するためです。「シェイプ形成ツールは使いやすくてシンプルです。特にロゴを作成するときにとても便利です。ペンツールはまったく使用しません。円や長方形などのシェイプだけでロゴを作ります」と同氏は言います。

その後、同氏は文字で表現した積み重なった本の上に「cups」のUとPを並べることで、ポッドキャストの高揚感を表現しています。Kim氏は文字をデザインするときは、Illustratorのリフレクトツールを推奨しています。文字を上下左右に反転させて読みにくくすることで、その形を強調できます。

Kim氏の新しいデザインは、ポッドキャストのロゴだけでなく、webサイトやソーシャルメディアでも採用され、今後はグッズにも使用される予定です。

Kim氏は、「作成するアセットについて事前によく考え、クライアントがまだ気付いていないニーズも想定し、様々な形式に対応できる作品を作成することが大事です」と話しています。

「ブランドは生き物です。一度作成したら完成するようなものではありません」

ポッドキャスト:Within the Wires

デザイナー:Rob Wilson

2016年に立ち上げられたWithin the Wiresは、ドラマティックなアンソロジーが売りのポッドキャストです。シーズンはそれぞれ独立していますが、複数のシーズンに登場しているキャラクターもいます。チームに加わったとき、Wilson氏には、ラフカットとあらすじ、1970年代から80年代後期の会社のロゴなどのビジュアル素材がイメージとして提供されました。同氏は、盗聴器が物語で重要な役割を果たしており、自然(特に虫)への暗示と多数の関連付けがテクノロジーの世界に凝縮されているという説明を受けました。それを受けて、マイクロチップの中に虫が潜んでいるというイメージが生み出されました。

「自然とテクノロジーを表現する方法として、回線の中に虫がいるようなデザインにしました」とWilson氏は言います。「この最終的な方向性は、ポッドキャストのタイトルと直接つながっており、物語の視覚的な手がかりになっていますが、私が作成したNVPの他のアイコンと同じように、解釈は視聴者に委ねられています」

ポッドキャストは、現在ではいたるところで利用されていますが、Rob Wilson氏が『Welcome to Night Vale』というオーディオドラマ用のロゴ作成を依頼された2011年には、まだ若干珍しいものでした。

「当時の私は、ポッドキャストが何なのかも知りませんでした。まだ比較的新しく、デジタル面の制約もありました。正方形にして、タイトルを付ける必要もあるのに、サイズは爪くらいの大きさしかありません。不可能に思えました」とWilson氏は言います。

Night Valeと、そのポッドキャストネットワークのNight Vale Presents(NVP)はその後、大きな影響力をもつようになり、Wilson氏のデザインは書籍やグッズ、さらにはタトゥーにも使用されました。同氏がNight Valeのクリエイターとチームを組み、共同で作業を進める中で、小さな正方形のデザインに大きな効果があることがわかってきたのです。

これまでにNVPのロゴを8つデザインしているWilson氏は、まずスケッチブックにアイデアを書き留めてから、その中で最も良いものをIllustratorに取り込み、マウスを使用して描画します。「NVPのポッドキャストアイコン用に作成したベクターイラストは、デザインの良さが引き立ち、とても効果的です」と同氏は言います。

同氏はIllustratorで、迷路のような幾何学模様の中に虫がいるイラストを複数作成し、小さく表示されても見やすいようにシンプルなものを最後の1つに選びました。自然界を表現するカラーパレットを使い、1970年代頃のテクノロジー企業のグラフィックデザインを再現するようなタイポグラフィを選択しました。

会社のブランディングに携わったこともあるWilson氏は、ポッドキャストのロゴというメディアの制約を、前向きに捉えています。

「スタイルや色、タイポグラフィ、メッセージなど、パラメーターが厳格に定められていると、創造性が自然に高まることもあります」と同氏は言います。

ポッドキャスト:The Heart

デザイナー:Jen Ng

The Heartというポッドキャストの制作者兼ホストのKaitlin Prest氏は、The Heartという名前が愛らしい印象を与えてしまうかもしれないと思い、ロゴの装飾にバレンタインを使用したくないと考えていました。生々しいサウンドデザインで、安易な分類を否定する情愛をテーマにしたこのポッドキャストは、以前はAudio Smutと呼ばれていました。

当時、アーティストのJennifer Custard-Jarosz氏が、Prest氏が住んでいた家のルームメイトに志願したのは宿命でした。

「彼女にスケッチブックを見せてもらい、夢中になりました」とPrest氏は言います。同氏はCustard-Jarosz氏に、解剖学的な心臓のイラストを描いてほしいと頼みました。まったく可愛げのない脈打つ筋肉のイラストです。

Custard-Jarosz氏は、黒のインクで心臓をスケッチし、落ち着いたピンクとグレーで色付けしたバージョンも描きました。Prest氏はThe Heartのチームと、ポッドキャストを制作するためにPrestが設立したオーディオ関連企業のMermaid Palaceのメンバーに、そのイラストを見せました。同社のアートディレクターを務めるJen Ng氏は、それぞれのイラストを基に仮のロゴを制作し、その後、インクのイラストの方を基にして制作を進めることにしました。

同氏はスケッチをAdobe Photoshopに取り込み、明るさやコントラスト、トーンカーブ、カラーバランス、特定色域の選択機能などを使って調節し、同氏が「リアルな質感」と呼ぶ表現を実現しました。

「また、このアートのエッジにアナログな手書きの雰囲気を残すため、Photoshopの自動選択ツールを、許容値をかなり低く設定して使用しました」と同氏は言います。「番組はリアリティと生々しさで構成されているので、それを表現したいと思いました」

Ng氏は黒と白がピンクの背景に映えるように、心臓のコントラストを調節しました。番組タイトルはイラストの中に盛り込まれているので、使用するとくどくなります。そのため省略されました。

ポッドキャストと同じように、ロゴも時間とともに進化しています。Mermaid Palaceのチームの一員であるアーティストのPhoebe Unter氏とNicole Kelly氏がプロデューサーの役割に就き、Unter氏が2020年初頭にロゴのデザインを刷新しました。元のアートワークは、ほぼ同一の解剖学的な心臓の図のスキャン画像に置き換えられました。著作権が切れているある書籍から抜粋したものを、紫色の背景にピンクでレンダリングしています。以前のバージョンを基盤にして、元のビジョンの力強さを伝えています。

「基本的に、ポッドキャストのロゴでは、番組のメッセージとアイデンティティを表現する必要があります」とNg氏は言います。「何かを維持するかどうか迷ったときは、ビジュアルアーティストには、番組を聴き、どのような気持ちになったのかをよく考えてから、それを正方形に凝縮するよう勧めています」

ポッドキャスト:Ghosted! by Roz Drezfalez

デザイナー:Stig Greve

Ghosted! by Roz Drezfalezは、かなりターゲットを絞ったポッドキャストです。あらゆる不気味な物事が大好きなドラァグクイーンのRoz氏が毎週ゲストを迎え、心霊やUFOの目撃談など、パラノーマルな体験について話します。他愛のなさと恐ろしさが等しく同居しており、この2つの特質をロゴに凝縮させることが、デザイナーのStig Greve氏に課せられた難題でした(同氏は運悪く霊を見たことがありません)。幸い、Roz氏には確固たるビジョンがあり、写真を中心に据えたロゴのイメージを提供してくれました。レトロで物悲しい絵画のような雰囲気のNancy Drewのカバーをオマージュしたものです。「文化を引き合いに出すことで、主題やトーンを手短に伝えることができます」とGreve氏は言います。

「このようなオマージュは、制約が厳しいフォーマットでは特に効果的です」と同氏は言いました。「貴重なスペースを説明的な文言に割かなくても、メッセージを伝えることができます」

ポッドキャストのアートワークに際し、Greve氏はデザイナーに、このメディアと格闘しないよう言い聞かせました。すばらしい写真があるなら、そのアセットにメッセージの80%を任せ、残りの20%のデザインに集中します。Ghosted!のロゴでは、Greve氏はAdobe Photoshopを使用して、そのイメージに「ふくよかな昔のヤングアダルトの絵のような雰囲気」を追加しました。

「大規模なテクスチャライブラリを持っています」とGreve氏は言います。「イメージをレトロな雰囲気にするときは、よく最初にこのライブラリを使用します。何時間もかけてしわくちゃの古い紙の雰囲気や汚れを再現することもできますし、考えられるあらゆるスタイルのしわくちゃの古い紙が大量に収録されたカタログを用意することもできます。どちらも大変な作業ですが効果的であるため、自分に合った方法を選ぶことになります」と話すGreve氏のライブラリは、自分で作成、撮影したオリジナルのテクスチャと、購入したテクスチャで構成されています。

同氏はAdobe Illustratorを使用してテキストをブロック化しました。フォントはIconian FontsにあるDan Zadoronzy氏のMister Twistedのものです。Greve氏がこのフォントを選択したのは、派手でチープな雰囲気があり、小さいサイズでも読みやすいためです。

Greve氏は、クライアントにデザインを見せるときは、コンピューターの画面だけでなく、携帯電話の画面でも見せることを推奨しています。アートワークを大きな画面で表示すると、ポッドキャスト制作者は、小さいスペースでさらに作り込む必要があると考える場合もありますが、多くの場合はシンプルな方が良い結果につながります。

ポッドキャスト:Here Be Monsters

デザイナー:Jeff Emtman

Jeff Emtman氏のポッドキャスト、Here Be Monstersのテーマは、ベッドの下に隠れているものではなく、頭の片隅にあるものです。このポッドキャストは、生き物や神、魔法など、様々な題材の個人的物語、インタビュー、サウンドアートで構成されています。

「題材は暗いものの、恐ろしいものではありません」とEmtman氏は言います。同氏は、「モンスター」という単語から「ハロウィンのような世界」を連想させるのは避けたいと考えていました。そこで同氏は、明るく親しみやすいロゴをデザインすることにしました。

その結果、文字を前面に出した作品が完成しました。鮮やかな色のグラデーションを背景に、このポッドキャストの名前の頭文字を並べたものです。建築物のような雰囲気で、目を引くデザインです。

「好き嫌いはともかく、見てすぐにわかるデザインにしたいと思いました」とEmtman氏は言います。「その目的は達成できたと思います」

しかし、細かいところで気になる点もあったので、同氏は最近、デザインに若干の変更を加えました。元のデザインでは、多くの人がレタリングと背景を見分けにくいと感じていました。また、「色覚異常を抱えている人にとっては悪夢のようなデザインです」と同氏は言います。元のフォントは角の部分に統一感もなく、対処が必要となる問題点が他にもありました。

同氏はこの2つの問題を、新しいレタリングをゼロからデザインすることで解決できました。同氏は等角グリッド、スナップ、ベクターペンツールについて短期間で集中的に学び、より一貫性の高いデザインを生み出しました。アクセシビリティの問題には、文字は半透明の色で塗り、押し出し効果は半透明の黒で塗ることで対処しました。これにより、ロゴをモノクロでも適切に使用できるという利点が生まれました。最後に同氏は、「明るすぎる」黄色を少し調整し、「マゼンタらしさが不十分」に思えたマゼンタも調整しました。

Emtman氏は、Here Be Monstersの仕事をしていないときは、他のポッドキャスト制作者にオーディオの編集方法を教えており、そうしたアドバイスはビジュアルデザインのプロセスにも応用できると考えています。

「あらゆる要素を最悪の状態になるまで調整してから、最高の状態になるまで調整しました」と同氏は言いました。「クリエイティビティは、車の運転とはまったく違います。車の運転方法を学ぶときは、人をひいたり自分が怪我したりしないよう、注意する必要があります。アートはそうではありません。アートの世界では、あまりにも快適な状態があまりにも長く続くと、危険が生じます」

ポッドキャスト:Scam Goddess

デザイナー:Aaron Nestor

フォトグラファー:Robyn Von Swank

最終的な画像を選別したら、多くの場合は、2010年からEarwolfのデザイナーを務めているAaron Nestor氏に送られます。

同社のロゴデザインのほとんどでは、番組を支えるタレントがフォーカスされます。削りたての鉛筆でスケッチするのが好きな根っからのイラストレーターであるNestor氏は、Scam Goddessのポッドキャストで使用される印象的な画像のような、良質なポートレート写真が持つ力のとりこになっています。

Nestor氏には、最終的な画像以外に、参照用のビジュアルも送付されました。その中にはBeyoncéの画像やテレビ番組のFleabagのプロモーション画像も含まれていました。どちらもキャンドルや照らし出されるテキストなど、宗教的なテーマに沿っています(選ばれたポートレート写真では、Von Swank氏が自分の結婚式用に制作したAmaroqのティアラを、Mosley氏がかぶっています。そのおかげで、Mosley氏が「本物の女神のようになった」と同氏は話しています)。

Nestor氏はこれまでの経験から、画像に「破壊的」な編集は加えないということを学びました。同氏は、Photoshopのスマートオブジェクト、フィルター、レイヤー、マスクを自由に使用することを推奨しています。これらのツールなら、変換によって元のデータに影響が及ぶことがないので、画質を損なわずに画像を編集できます。「元に戻せない変更を防止できれば、編集前のバージョンに戻す必要が生じた場合でも安心です」

Nestor氏は、遊び心がある宗教的な雰囲気のアイコノグラフィのイメージをテキストに反映させるため、手書き風フォントや黒字のゴシック体などを検討してから、最終的にMason Sans OTを使うことにしました。厳粛で古風な雰囲気のフォントです。

写真とデザインがかみ合ったときの効果は絶大です。

Scam Goddessは、最大手のコメディネットワークEarwolf傘下のポッドキャストです。この番組では、コメディアンのLaci Mosley氏が理不尽な詐欺の世界についてゲストと話します。悪名高いFyre Festivalの詐欺行為や歴史的な詐欺事件など、詐欺にかかわるあらゆる物事についてじっくり考察します。

ロゴ用のMosley氏のポートレート写真を撮影したフォトグラファーのRobyn Von Swank氏は、Earwolfの多数のパーソナリティの写真も撮影していますが、その写真をサムネイルより大きいサイズで見る人は多くないことを知っています。

「そのサイズで、ポートレート写真をできる限り面白くしようとしました」とVon Swank氏は言います。「テーマに合っていれば、パンチの効いた色や強烈なエッジライトを使用して被写体を際立たせることもあります。両方使用することもよくあります」

クライアントの最初のコンセプトを最優先することを念頭に置きながら、PRに使用するその他の写真を確保するため、同氏は様々なスタイルでいくつかのイメージを撮影します。そうした写真が最終的にロゴアートに採用されることもあります。編集段階に入ったら、Adobe Camera RawビューアやAdobe Bridgeを使用して全体的な色補正やその他の調整をおこないます。そうして完成した画像をクライアントに送り、チェックしてもらいます。画像が承認されたら、Adobe Photoshopに取り込んで、コピースタンプツールやパッチツールを組み合わせて使用して全般的なレタッチをおこない、ほつれ毛などを除去します。それから同氏が身に付け、仕事に活かしている様々な手法を組み合わせて仕上げを施します。

「できるだけ人の自然な状態を残したいと思っています」とVon Swank氏は言います。「商業的な見栄えに整えるため、わずかな仕上げを施すだけです」

「私はこの小さな四角い箱を見るのが大好きです」とVon Swank氏は言います。「クリックすると、箱が開いてお気に入りの音声や物語が流れ出てくるような感じがします。デジタルなのに、手で触れられるような不思議な感覚があります」

インタビューは電子メールを通じておこなわれ、わかりやすさと長さを考慮し、要約、編集されています。